14.世話焼き系女子






「秋ちゃん、おはよ!」
「おはよう、なまえちゃん」


月曜日、通学路で会った秋ちゃんに手を振り駆け寄ると、秋ちゃんは手を振り返した後、周りをきょろきょろ見回した。




「今日は円堂君は一緒じゃないの?」
「うん。サッカーしたいから先に行くって」
「ふふ、そっか」

円堂君らしいわね、と納得した様子の秋ちゃんの隣に並んで歩く。
昨日の事や授業の話をしながら歩いていると、前方に見えた人影が此方に向かってきた。





「みょうじ、木野、おはよう」
「!!」
「おはよう、風丸君」
「おっ、おは、よ!」
「……なまえちゃん、」


視覚と聴覚にダイレクトに入り込んだ笑顔と声に、ぴしりと表情が固まる。
錆びたロボットみたいにぎぎぎ、と機械音がしたのではないかと思うほど動きが鈍くなった私を見て、秋ちゃんが耳元でこそりと囁いた。




「……なまえちゃん、昨日の話で、意識しちゃってるでしょ?」
「いし…!?っちちちち違っ、そ、そんなんじゃ…!」


抗議に大きめの声が出て、はっと口を塞ぐ。
そっと風丸君を見ると、幸い内容までは聞こえていなかったのか首を傾げていた。



「どうかしたか?」
「ううん、何でもないわ。ね、なまえちゃん?」
「う…うん、何でもないっ!」


その後も、雑談をしながら無事学校まで着いたけれど、秋ちゃんが事ある毎に私と風丸くんの間で話を盛り上げさせようとするから困った。
目が合うたびにくすりと笑う秋ちゃんは、可愛かったけどなんだかとても意地悪でした!















「皆さん、ちゃんとドリンクとタオル、持っていって下さいねー」


サッカー部の練習の合間、十分ほどの休憩時間。
皆が騒々しく話す中、春奈ちゃんの鈴の声がグラウンドによく通る。
その声に集まった部員の皆に、私達マネージャーはいつもの通りそれぞれにタオルとドリンクを配っていった。




「春奈、ドリンクをくれ」

あ、さすが鬼道さん、わざわざ一番遠い春奈ちゃんのところまで行くなんて、素晴らしいシスコン。



「えっ、お兄ちゃんのドリンクこっちにないよ」

真顔で言い放った春奈ちゃんは、すぐに他へ行ってしまった。
……可哀想な鬼道さん。



「あ、あの、鬼道さん。ドリンク、こっちにあるよ」
「ああ…すまない、みょうじ」


手元にあった彼のドリンクを手渡す。
ああ、かなり凹んでる。
さっき春奈ちゃんが「お兄ちゃん最近やたらベタベタしてきて、なんか気持ち悪いんですよねー」とか言ってわざわざ私にこれ渡してきた事は黙っておこう。




「……思春期、か…」


ちょっと違うんじゃないかなあ。






「なまえ先輩っ、タオル余ってますー?」
「え?…ああうん、まだあるよ」


ベンチに置かれたタオルを見れば、まだ数枚、使われていないタオルが詰んであった。
足りないのかな、とそれを掴んで春奈ちゃんに渡そうとすると、そのまま叫ぶように一言。



「じゃあ、風丸先輩にタオルあげてくださーい」
「えっ!?」


掛けられた声に慌てて振り向けば、にやにやと口端を吊り上げたいい笑顔の春奈ちゃんが此方を向いて手を降っていた。
…楽しんでる、絶対楽しんでるよあの子…!



「悪いな、みょうじ」
「う、ううんっ、気にしないで!その、マネージャーの仕事だし!」


此方へ歩み寄る風丸くんに、手にしたばかりのタオルを一枚手渡す。
なんだか、今日はずっと、風丸くんを見るとドキドキしっぱなしだ。
ああもう、ぜんぶ秋ちゃん達のせいだからね……!



「……あ、そういえば」
「っは、い?」
「さっき雷門から、みょうじに伝言を預かってきたんだ」
「伝言?」
「ああ。部活の合間にでも、雷門のところに来てくれ、って」
「部活の合間って……なんだろ、急ぎかな?」
「悪い、そこまでは聞いてない」
「そっか、えと、ありがとう…取り敢えず行ってみるね」
「ああ」















「別に、用はないわよ」
「へ?」


夏未ちゃんのところに来て早々、予想外の発言に面食らう。
わざわざ風丸くんに頼んでまで、しかも部活中に呼んでおいて、用がないとは此れ如何に。



「で、でも、風丸くんが、夏未ちゃんが呼んでるって……」
「ええ、そう伝えて貰うよう言ったわ」
「……?あの、言ってる意味がよくわからないんだけど…?」
「…風丸くんとは、たっぷりお話しできたかしら?」
「……はい?」



にこり、可愛らしい笑顔でそう訊ねる夏未ちゃん。
その言葉の中に、私は一連の彼女の意図を悟ってしまった。





「…まさか、さっきの伝言って、風丸くんと会話させるため、の…?」
「……うふふ」
「!」






…………今日の結論。
サッカー部のマネージャーさん達は、皆さんやたらと世話焼きです。